『意志をつぐ者達へ』
〜 月 光 〜
〜paddling〜
翌朝、ひとけの無いキャンプ場の隅に張ったソロのテントを片付けながら川の近くだった事を思い出し
流れの激しいだろうその川の上流に興味が湧いた。
オートバイで行ける所まで川沿いをさかのぼってみようと思い立つ。
川沿いをなぞる様に続く心地よい路をしばらく走る。
そこへ、単線の電車のレールが山間から進む道路へと絡んで来る。
戯れる様に、時には平行に、時には離れ、近付き、視界から消え、着かず離れず、、。
短いトンネルを抜けるとローカルな駅が現れ、列車を待ってみようと駅前へオートバイを止めた。
そしてカンコーヒーを買いマルボロに火をつける。
タバコを何本吸っただろうか 列車は来る様子は無く、無人駅にも人陰が無い。
駅前のバス停にやって来たカゴをしょったお婆さんに訪ねてみると、後1時間程は列車は来ないらしい。
私は列車を待つ事をあきらめ、ふたたび走り出そうと駅前の道路を挟んだ向こう側の止めたオートバイへ眼を向けた。
道路の向こうの開けた河原に何かを広げる人陰が視界に入った。
道路から河原への斜面を駈け降り、歩いて近付いて行くと何かを組み立てているのが解った。
50才過ぎ程に見えるその男が組み立てているのは組み立て式のカヌーだった。
話し掛けてみると、行きは電車で帰りは下流にある家族が待つ自宅までカヌーに乗って行くのだと言う。
組み立て式のカヌーがあるのを知ったのも初めてで驚きだが、電車でカヌーを背負って来て自宅まで帰るという物好きが居るのにも驚きだった。
ま、自分も物好きの部類なのは間違いないのだが?。
組み立てしているのを見ながら世間話をしていると、その男はこの歳になってようやくやりたい事が実現出来る余裕が出来たのだと言う。
その話を聞いて、目的も無く時間と戯れる自分は少し罪悪感を感じてしまった。
その男が手を振りパドリングしながら川を下り始めるのを見届けていると“帰る場所があるという事はいい事かも知れないな”と始めて教わった気がした。
〜波と、はしゃぎ雲を誘い、ついに僕は君に出会い、若さ故にすぐにチラリ、風の前の塵に同じ…〜
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〜 月光〜 《 paddling 》 |
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APR.2002 , neil. proof copyright. |
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