『意志をつぐ者達へ』
〜 月 光 〜
第1章 〜 Shift 〜
PM7:00過ぎ、仕事が終わり、たたずむBLUEのカワサキZX9R.B1に火を入れる。
その青い9Rに股がり赤いマルボロにも火を入れる。そうやって暖気しながらふと、このタバコ1本の時間差でどう言う風に、人生が替わるか?、などと、くだらない可能性を想像しながら、このまま、まっすぐ1人の部屋に戻りたくない衝動にかられ気分がシフトする。
思い立った用にマルボロを揉み消し、軽く一息入れた後、新しいSHOEIのメットを被りストラップを締める、夏を忘れた事に気付き、もうそろそろMX用のグローブじゃ辛いかなと思いつつ手を通しながら自宅の部屋のレザーのグローブを想像し、季節が、シフトしていくのを感じる。
明日からグローブを取り替えようかと思いながらクラッチレバーを握り、1速に蹴り上げ走り出す。
とりあえず、環七に出て葛西方面へしばらく走り「赤地に黄色のM」のでっかい看板を見て腹のムシが鳴るが、やり過ごす。
この時間、まだ車の多い環七と都心方面を避けるように京葉道路とのオーバーパスを股がらず側道に入り左に折れて京葉道路に出る。
途中、ラーメン屋も数件あるが、今日は、ラーメンには食欲がシフトしない。
うだうだと渋滞をすり抜けながら京葉高速の篠崎の入り口の1つ手前の信号まで来てしまい、先頭で赤信号に引っ掛かる。
目の前のまるで発射台のようなスロープから飛び立てば、東関道終着の茨城の潮来か、千葉、館山道、木更津側の東京湾横断道路まで、すくなくとも飛んでいける。
ここの信号待ちは本当にいつも発射台に乗せられてるようで、さながら自分は人間ロケットと言った所か。
発射準備が整った合図のように歩行者用の信号が点滅し始め何故か自分は少し緊張し始める。
その点滅が終わると同時にギアーを1速に入れ身構える。
この緊張感だけは、始めてバイクに乗りはじめた頃と何故か変わらない、ただ、昔より感じる機会が少し減ったようだ。
バックミラーで後方をチラチラッと眼だけで確認し、ふたたび信号へ眼をやる。
そして、シグナルブルー。 引っ張りがいのある1速1速を、親のかたきのように引っ張り倒しながらギアーと一緒に気持ちをもシフトアップして行く。
このテンションに入ってしまえば自宅に近い、市川インターなど降りられるわけがなく、江戸川の上の右コーナーをそのままの勢いで突っ込み、途中、でかいギャップに飛ばされながらもターンしてゆき市川インターをほぼ意識的にスルーする。
そこからは無心で、帰路に付くだろう、まばらな車の隙間をぬいながら市川、原木、船橋まで3車線のストレートを引っ張る。船橋の料金所の手前の緩い右コーナーを回り、シフトダウンしながら一番左のさい銭箱へと飛び込む、右のグローブをはずしジーンズの右のポケットの小銭をまさぐり取り出し、その中から百円玉二枚を、入り立てなのか珍しく愛想の良い料金所のオヤジに渡す。
残りの小銭をポケットに戻しグローブをはめて領収書を受け取りそのまま回収箱に放りこむ。
その愛想のいいオヤジに付き合うつもりで、軽く会釈し走り出し左右を確認しながら加速する。
料金所のタイミングで少し冷静になり、狭くなった京葉を少し流しながら、そういえば料金所の手前までに追いこして来た数々の車の中に怪しい覆面のようなセダンが居た、気がしてきて、追われてもいないのに、逃げるようにスロットルをあけ加速し、その先の幕張パーキングへと潜りこむ。
パーキングに入り念のため目立たない場所を探し9Rを止め、ついでにここで飯を喰う事に決める。
立ち食いコーナーで、マズイが安い、カツカレーを食べながら、引きかえすには、まだ少しもの足り無さを感じて、もう少し先へ行く為にはガソリンの量とカネが不安なのを思い出す。
カツカレーを食べ終えて、食器を下げ、コップの水を飲み干し御満悦で外へ出ると、少し肌寒い。
薄手のナイロンのジャケットとMX用グローブを少し後悔しながら、9Rに股がりノーヘルのままパーキングのスタンドに行き、高いがウマイ、ハイオク満タンをグルメな9Rにオゴった。
精算した後、財布と相談すると、終着まで行って帰れるほどのチケット(現金)がある。
少し考えて、昨日、仕事の昼休みに雑誌で見て、欲しくなったエイプのTシャツが頭をよぎったが、でかいゲップが込み上げてくるのと同時に忘れ、オゴリついでに今日は贅沢に流す事に決める。
スルスルと加速レーンから本線へと復帰し、しばらくトロトロと流し、9Rのスクリーンに伏せるほどのスピードでは無かったのだが、身体が冷えるので大げさに伏せていると、右からでかい箱をしょったバイク便のCB400SFに涼し気に抜かれた。
かっこ悪い所を見られた思いで、しばらくそのCBのしょった青い箱を眺めているとCBの彼はスピードを緩め俺のとなりへ並びヘルメットのスモークシールド越しに合図を送ってきた。いや、そんな気がした。
2台同じタイミングで並んだままスピードを上げ、右へ左へと抜いたり抜かれたりを程よいスピードで淡々とCBとくり返して行く。
そうやって遊んでいると宮野木Jctで先行していたCBは左のレーンへ移り、東関東へと進んで行くようだ。
誘われるように、息が合うCBに何となくそのまま付いて行く。
東関東自動車道へ入ると、CBは右手を上げ千葉北インターへと降りて消えて行ってしまった。
一人、おりそこねた俺は、フト、我に帰り、自分は何処まで行って折り返そうかと、考え始めた。
少しトーンダウンしたまま、メーター100ちょいで1個目のオービスを過ぎた時、1台の車が突然張り付いて来た、右のバックミラーを凝視すると、どうやら覆面ではなく、モスグリーンのセルシオに50代位のオヤジがアンチなのかケムタゲな表情で沈黙している。
その瞬間シフトダウンし、加速して引き離そうと思ったが、自分の経験から同じビックセダンでもシーマ系は紳士が多いがセルシオはイケイケが多いのを思い出して、醒め、左ウィンカーを出し走行車線に移りオヤジにレーンを譲る。
セルシオはゆっくりと加速し横に並びチラっとこちらに目を一度やり、セルシオのスピードを載せて行った。
その少なくとも自分よりも金持ちそうなモスグリーンのセルシオの行き先は、ストッキングを履いたどこかの綺麗なオネーちゃんでも迎えに成田空港辺りだろうか?。
右に緩やかに下るその先へとそのセルシオは50歳代の地位と経済力を無意識に掲示しながら遠ざかり闇へと消えて行った。
なんとなく、少し気分が落ちたまま9Rを酒々井PAへとすべりこませて、自働販売機で普段は見なれぬHOTの缶コーヒーを買い、手に取るとかなりヌルイ。こんな時さっきのセルシオのオヤジなら躊躇せずも、文句を言いながら別の あたたかいモノ を買い直すのだろうなと又、いらない事を考えながら、自分はその なまヌルくアマいコーヒーを飲み、夜空を見上げるとそんな自分を笑っているかのような月に、雲が架かろうとしていた。
SEP 2000, neil . proof copyright.